「短歌往来」の2008年〜2016年まで連載されたエッセイの中から95編を選んで収めた本。歌人・辞典編集者である著者ならではの興味や関心、こだわりが伺われる内容となっている。
茂吉と佐太郎とではどこに違いが感じられるのかというと、茂吉の一点集中には従来言われているような、写生という姿勢が強く感じられるのに対して、佐太郎の一点集中には、その写生を通り越した様式美の世界への傾倒、それが感じられるような気がする。
古本の売れない時代ということで、以前なら売り値の三割で引き取っていたのが現在は三分か四分だという。つまり古書店で千円で売られている本は、以前なら三百円で買い取っていたのが、今は三十円か四十円で買い取っているということになる。
とにかく話題が豊富で、読んでいて飽きない。気楽なエッセイのように見えるが、どれも様々な資料や調査に基づいた話であって、誰にでも書けるようなものではないのである。
1点、気が付いたこと。
『奇談百詠』の作者、細川春流の経歴に「会津藩士」「青森県士族」の2つの情報があることに対して、大島さんは「青森県士族とあるが、会津藩士のほうが信憑性があるようだ」と書いている。
この「青森県士族」は、おそらく斗南藩のことを指しているのだろう。戊辰戦争に破れた会津藩が明治になってから今の青森県に移った藩のことである。そう考えれば、「会津藩士→青森県士族」という流れに何の矛盾もない。
2017年10月15日、ながらみ書房、2000円。