1995年に河出書房新書から刊行された本の文庫化。
中国の長春の観光用地図に「偽国務院」「偽皇居」など「偽」の字がたくさんあるのを見て興味を持った著者が、実際に現地を訪れたりしながら満州国について論じた本。と言っても、満州国の歴史的な分析ではなく、満州国を通じて見えてくる国家のあり方に関する考察が主眼となっている。
満州国は国家が偽国家に変わる境界線上にある。満州国を語る国家論は、その論証の枠組みそのものが崩壊する一線上を行きつ戻りつせざるをえない。つまり偽満洲国論、それは国家論自体の「偽」性をも浮き彫りにする偽国家論なのだ。
本のなかに登場する人物は、甘粕正彦、大杉栄、清沢冽、後藤新平、石原莞爾、柳田国男、田中智学、吉本隆明、宮沢賢治など、実に幅広い。中でも、ユダヤ系ウクライナ人で、後にゲーム機器の会社タイトーを創業したミハエル・コーガンの話は面白かった。
日本語を使えば日本精神が養われ、日本人化される。そう思われたからこそ、強引な直接法教育は採用された。(・・・)日本語を話す人こそ日本人だとみなす価値観も変わっていない。
コンピューターに繋がりつつ商品を買うことは、選挙で一票を投じることと似ている。
歴史の本だと思って読み進めるうちに、実は現在の私たち自身の問題を論じている本であることに気が付く。国境線、領土、移民、外国人労働者、近隣諸国との摩擦などが問題になっている今、この20年以上前に書かれた本の価値は少しも失われていない。
2005年6月25日、中公文庫、857円。