2017年10月11日

大室ゆらぎ歌集 『夏野』


「短歌人」所属の作者の第2歌集。
2010年から17年までの歌265首を収めている。

蓮の骨浅く沈めて澄みわたる冬しづかなる水生植物園
飛ぶ鳥のつばめも落ちて死にゐたり砂のくぼみに脚をのばして
鋤き込まれて真黒き土にきれぎれに混じる花びらコスモスのはな
蔓草に口のうつろを探らせて喉の奥まで藪を引き込む
月しろが窓から窓へ移る間(ま)を眠りながらにわが額(ぬか)暗む
白鷺と青鷺一羽づつがゐて青鷺は白鷺の影のごとしも
川土手にジグソーパズルは燃やされてジグソーパズルのかたちの灰は残りぬ
石棺のあとに窪みは残りゐてそこにをりをり溜まる雨水
石鹼でよくよく洗ふ生きてゐるだけで汚れてしまふからだを
蚊柱に入りて出づれば以前とはいくらか違ふわれとはなりぬ

1首目、枯れた蓮の茎を「骨」と詠んだところが美しい。
2首目、上句だけだと観念だが、下句の具体・観察がそれを支えている。
3首目、コスモスのピンクや白などの淡い色と「真黒き土」との対比。
4首目、野辺に朽ちてゆく自分の身体をイメージした歌。何とも生々しい。
5首目、一晩の間に月光が射す時間帯と射さない時間帯がある。「眠りながら」なので自分では見えないはずの場面だ。
6首目、シンプルな構図の、見立てが面白い歌。
7首目、四句が12音もある。字余りを承知で「かたちの」を入れている。
8首目、古墳のなかの光景だろう。死者の存在が今に生きている感じがする。
9首目、何もしなくても汚れるのだという発見。
10首目、感覚の不思議な歌。入る前と後とで何かが違っている。

こうして見ていくと、全体に死のイメージが濃厚な歌集だということがわかる。

2017年7月18日、青磁社、2500円。

posted by 松村正直 at 16:36| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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