2017年09月16日

山本夏子歌集 『空を鳴らして』


著者 : 山本夏子
現代短歌社
発売日 : 2017-08-31

昨年第4回現代短歌社賞を受賞した作者(「白珠」所属)の第1歌集。
2007年から2016年までの作品347首を収めている。

母と子は竿にもつれて父だけがのんびり風に乗るこいのぼり
こんなにもつばめはゆっくり飛べるのか子に飛び方を教えるときは
駅前に宮田書店は今もあり日に焼けている浦島太郎
群れをなす南の島の蝶に似て駐輪禁止の紙札なびく
上履きが片方道に落ちている木星みたいな裏側見せて
黒ずんだサトちゃん人形笑ってる足に鎖を巻きつけたまま
二時間を水に浸して棄てられる中止となった花火の玉は
苦しみを隠したままで死ぬことのできるうさぎが一度だけ鳴く
広場からうさぎを一羽選るように子が保育士に抱き上げられる
前髪を短く切ればおさなごにもっと幼い顔のあること

1首目、何のことかと思って読んでいくと結句で「こいのぼり」の話だとわかる。語順に工夫がある。
2首目、速く飛んでいるイメージしかない燕ならではの歌。
3首目、昔ながらの個人経営の書店。こうした店はどんどん減っている。
4首目、たくさんの自転車に札が貼られて、羽ばたいているみたいに見えるのだ。
5首目、「木星みたい」が大胆な比喩。ゴムの色合いや縞の感じが似ている。
6首目、薬局の前に置かれているゾウのキャラクター人形。盗難防止に鎖が付けられているのが痛々しい。
7首目、初二句の具体がいい。発火することがないように慎重に扱うのだ。
8首目、人間と違って言葉で苦しみを訴えることができない哀れさ。
9首目、上句の比喩が印象的。保育士から見れば、わが子もワンノブゼムでしかない。
10首目、どんなに幼い子でも、生まれた時に比べれば確かに歳を取っているのである。

後半は妊娠、出産、子育ての歌が多い。文体や表現に健やかな明るさが感じられるのが大きな特徴と言っていいだろう。

2017年8月31日、現代短歌社、2500円。

posted by 松村正直 at 06:58| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。