編集室雁信(編集後記)に小池光さんが、こんなことを書いている。
●歌集が次々に出て慶賀に耐えないが歌集というものは売るものでも売れるものでもなく差し上げるものである。少し分厚い名刺である。名刺だから差し上げて、それでなんの余得も欲してはならない。差し上げた未知の人から返事がきたりして嬉しいものだ。それで十分と思わねばならぬ。
随分と思い切った書き方をしているが、読んでいて気持ちがいい。最近の小池さんらしいとも思う。十年くらい前まではみんなこういう感じで歌集を出していたわけで、「歌集は名刺代わり」という言葉もよく聞いた。
近年、歌集を売ろうとする試みや努力が出版社や歌人の間にも広がりつつある。それはそれで大事なことだと思う。お金の問題はやはり馬鹿にできないのであって、歌集が売れて作者の経済的な負担が少なくなれば随分と歌集出版の風景も違ってくるだろう。
その一方で、歌集が売れないことを別に悲観する必要もない。売れる・売れないというのは、短歌にとって本質ではないからだ。最終的には、自分の納得のいく歌ができるかどうかという問題であろう。
もちろん、売れるに越したことはなくて、僕自身、本を出すたびにベストセラーになることを思い描く。でも、小池さんの書いている「それで十分」という心構えも忘れずにいたいと思う。