わが齢(とし)に娘がおどろき娘の歳にわれがおどろくケーキ食べつつ
亀谷たま江
作者の誕生日を祝って家族でケーキを食べている場面だろう。互いの年齢に今さらのように驚く母娘の姿が、何ともユーモラスに詠まれている。
三人のうちの二人が病みてをりほぼ全滅と言ふべし家族
澤村斉美
夫と幼い子どもが風邪をひいて寝込んでしまったという状況。そうでなくても人手が足りないのにという焦りと苛立ちが「ほぼ全滅」によく表れている。
臨月の娘(こ)の腹撫でてもの言へば呪文をかけるなと遮られたり
村田弘子
臨月ともなればいろいろとお腹の子に語り掛けたくなるものだが、度々なので鬱陶しがられたのだろう。「呪文をかけるな」が強烈で笑ってしまう。
ポシェットの細きベルトがTシャツの乳房の間をとほり七月
清水良郎
薄いTシャツ越しに乳房の形が浮かび上がってくるので、思わず目が行ってしまうのだ。夏の明るさと健康的な(?)エロティシズムの感じられる歌。
この部屋は海からの風の通り路十三階の窓開け放つ
乙部真実
マンションの窓を開けるとよく風が通り抜けるのだろう。それが海から吹いてきた風だと思うと、気分も開放的になる。遠くに海が見えるのかもしれない。
いちどだけ掬はれしみづ さまよへるあなたをうるほす河でよかつた
小田桐夕
恋の場面を詠んだ歌。一度だけの関わりでも構わないという強い思いや覚悟が滲む。相手の心を潤すことができればそれで十分だと感じているのだ。
ご愁傷さまです、の中に秋はありあなたはゆくのかなその秋を
安田 茜
「ご愁傷さま」という挨拶が行き交う葬儀の場にあって、亡き人に思いを馳せているところ。言葉遊びの要素がうまく働いていて味わい深い。
全国大会ではお世話になり、ありがとうございました。「塔ができるまで」の映像の中で、松村編集長が全ての原稿に目を通していらっしゃるお姿に胸がいっぱいになりました。いつの日か校正のお手伝いに京都まで出かけたいです。
昨日、図書館で「短歌研究 9月号」の新人賞の候補作に、若葉集のうにがわえりもさんの作品を見つけ、とてもうれしかったです。いい連作でした(^^)
「塔」の再校作業は毎月第3(第4の時もあり)日曜日に永田家で行っています。ご都合が良ければいつでもご参加下さい。
それに「全滅」は少なくとも10とか20くらいの数の話に使うことが多いので、それを3人の話に使っているのも大袈裟な感じでおもしろいです。