米川千嘉子「つるつるの世」33首から、はじめの5首を引く。
「お嬢さんの金魚」の歌よ水槽はとぷとぷとぷと夏のひかりに
九州に豪雨はつづき七年間会ふことなき河野裕子さんをおもふ
河野さんの「ちりひりひ」とか「妙(めう)な」とか ひるがほは首しろく
咲きだす
アホなことはどれほどどれだけ積み上がりし この七年を知らぬひる
がほ
河野さんのあかあか赤ままの良妻のうた その幸ひはいまもそよぐや
2010年に河野裕子さんが亡くなって、早くも7年が過ぎた。
河野さんを偲びつつ、移りゆく時代に思いを馳せているのだろう。
河野さんの歌がいくつも踏まえられている。
お嬢さんの金魚よねと水槽のうへから言へりええと言つて泳ぐ
『歩く』
ちりひりひ、ちりちりちりちり、ひひひひひ、ふと一葉(ひとは)笑ひ出し
たり神の山 『体力』
眠りゐる息子の妙(めう)な存在感 体力使ひて眠りゐるなり
『体力』
美しく齢を取りたいと言ふ人をアホかと思ひ寝るまへも思ふ
『母系』
良妻であること何で悪かろか日向の赤まま扱(しご)きて歩む
『紅』
こんなふうに古い歌を思い出しながら、歌を読んでいくのも楽しい。