2016年8月から京都芸術大学文芸表現学科の学生を中心に行っている「上終(かみはて)歌会」のメンバーの出した冊子。記念すべき第1号。
赤青黄緑紫白黒と何もなかった日の帰り道
小林哲史
上句の色の羅列が「何もなかった」につながるのが面白い。色だけをぼんやり見ていたようでもあるし、本当は何かあった日なのかもしれないとも思う。
記憶の雪は四十五度にふっている窓の対角にきらきらとして
中野愛菜
「四十五度」がいい。風まじりの氷の粒のような雪が斜めに窓を横切っていく。ふるさとの家で見た光景だろうか。記憶に今も鮮やかに残っているのだ。
帽子だけ持って飛び乗る上り線窓の指紋が富士に重なる
鵜飼慶樹
上句のリズムや内容に若さと勢いがある。下句は一転して非常にうまい写生で、技術の確かさを感じる。東海道線で東京方面へ向かうところか。
はなびらがあなたの胸にすべりこむはなびらだけが気づく心音
中山文花
淡い恋の歌。相手の着ているTシャツの首のあたりから桜の花びらが入っていくのが見えたのだろう。君の心臓に触れてその音を聴いてみたいという思い。
バースデーケーキに墓標立てる彼うちくだかれたうちくだかれた
森本菜央
下句がいい。ひらがな表記が呪文のようでもあるし、「打ち砕かれた」という言葉が解体して、「抱かれた」や「枯れた」が浮んでくるようにも読める。上句の蠟燭を「墓標」に見立てているのも、意外性があって印象に残る。
2017年8月1日発行。