全48ページ。印象に残った歌をいくつか引く。
共通のゲームが好きというだけの友達、母というだけの他人
長友重樹
「母というだけの他人」に驚く。確かに母といえども他人であるのは間違いない。下句の句割れ・句跨りがうまく働いている。
心療内科に通うぼくたちやわらかな心の皮膚を一枚はがす
菊竹胡乃美
カウンセリングを受けている場面だろう。皮を一枚そっと剝がすように、少しずつ自分の心を打ち明けていくのだ。
君の描くハートは隙間が空いていていつもわたしが少し描き足す
金子有旗
ハートマークの線がきちんとつながっていないのが作者には気になる。完全なハートになるように描き足すところが微笑ましい。
部屋じゅうの鶴の群れから逃げだして飛行機になる千一枚目
松本里佳子
折紙で千羽鶴を折ったあとの「千一枚目」。そう言えば千羽鶴は鶴だけれども糸に吊るされて、自由に空を飛ぶことがない。
屋根裏に額を寄せてぼくの記憶をぼくらの記憶にする双子たち
松本里佳子
互いの額をくっつけ合うと、記憶を共有できるのだろう。SFかオカルトみたいな発想で、笹公人さんや石川美南さんの作風を思わせる。
東京の人はかぶってないからと駅で帽子を脱げるおとうと
狩峰隆希
地方から東京に出てきて、自分のファッションを恥ずかしがる弟。自分でなく弟の話だけに、より痛ましさを感じる。
他には、「牧水・短歌甲子園」経験者4名による誌上座談会が面白かった(ただし前半の互いの歌の批評はもの足りない)。現在、盛岡市主催の「全国高校生短歌大会」(短歌甲子園)と日向市主催の「牧水・短歌甲子園」の二つが行なわれているが、これは統一できないのだろうか。
2017年6月10日、九州大学短歌会、500円。