映画「男はつらいよ」のシリーズ全48作のロケ地を訪ねて、全国各地を旅した紀行文。初出は「新潮45」2015年8月号〜2016年11月号。
訪れたのは、沖縄、柴又、網走、奥尻島、金沢、永平寺、会津若松、佐渡、別所温泉、京都、津山、備中高梁、龍野、大阪、五島列島、伊根、温泉津、津和野、鰺ヶ沢、寒河江、秋月、日田、加計呂麻島など。
「男はつらいよ」と言えば、人情、喜劇、家族、恋愛といった側面から語られることが多いが、著者の観点は少し違う。
「男はつらいよ」は旅の映画である。
「男はつらいよ」は、消えゆく日本の風景の記録映画である。
「男はつらいよ」が何度見ても面白いの理由のひとつはそこに、失われた鉄道風景が残っていることにある。
「男はつらいよ」は、喜劇映画としてだけではなく、懐かしい風景を記録したシリーズとして長く残るに違いない。
二〇〇七年に廃線になってしまった「くりでん」を「男はつらいよ」はみごとに動態保存したことになる。
シリーズ最終作「寅次郎 紅の花」(1995年)の公開から既に20年以上が経つ。町並みが変ったり、鉄道が廃止されたりしたところも多い。記録映画としての「男はつらいよ」の価値は、今後ますます高まっていくことだろう。
大学時代に「男はつらいよ」の魅力を滔々と語っていた友人は、大の鉄道マニアでもあった(卒業後にJRに就職)。「男はつらいよ」と鉄道は、切っても切り離せない関係にあるのだ。
2017年5月25日、新潮選書、1400円。