五首連作+「岡山」エッセイ(9名+OG7名)、学年×五首連作(6名)、一首評、往復書簡、「第三回学生短歌バトル2017記」という盛り沢山な内容で、全80ページ。
額から降りてくる手がのどを避け心臓を避けていく 冬だった
山田成海
恋の場面。「のど」や「心臓」に触れてほしいという思い。結句の一字空けが効果的で、鮮烈に甦ってくる感じがある。
クラシックバレエを辞めた足先が体の前の陽に触れたがる
川上まなみ
立っている時につま先が無意識に動くことがあるのだろう。かつてバレエを習っていた時の名残が身体に残っている。
瞬間を覚えていること その奥でらくだが閉じる分厚い瞼
加瀬はる
記憶の鮮やかさと脳の奥から甦る不思議な感じがよく表れている。下句のイメージへの飛躍が抜群に良い。
おまえよりおまえのにおう暮れの森すすめばここが脳だと気づく
加瀬はる
今は目の前にいない相手なのだけれど、濃厚にその存在を感じているのだろう。襞の多い脳は、なるほど森に似ている。
白菜の水分なのか白菜が水分なのかぼこぼこと溢れ始めた鍋を
見まもる 上本彩加
5・7・5・7・5・7・7という長い歌。白菜が煮えてくたくたになっていく感じがよく出ている。
地獄へ連れてきてくれてありがとう 燃え立つ畔のかがよひを行く
森下理紗
「曼珠沙華(リコリス)」という一連の歌。曼珠沙華の咲いている畦道を歩いているところ。「ありがとう」が強く響く。
この兵士は確かこのあと死ぬはずだ故郷の森を語ったあとで
森永理恵
かつて見たことのある映画を再び見ているところか。主人公ではないけれど、印象的な人物。故郷の思い出を話す場面の後で戦死するのだろう。
重力のこびりついてるヒラメ筋洗ってそのまま布団に沈む
加瀬はる
ヒラメ筋はふくらはぎの筋肉。よく歩いて疲れているのだろう。まるで筋肉を取り出して洗っているみたいな表現がおもしろい。
崩しても崩してもいのち箸先が死んだシシャモの腹をまさぐる
山田成海
題詠「ししゃも」。シシャモの腹の中にある卵の粒の一つ一つが「いのち」であることを、あらためて気づかされる。
2017年6月10日、岡山大学短歌会、400円。