ちぎっては食べちぎっては食べるパン私の中に暴力がある
鈴木晴香
上句は何でもない光景だが、下句がおもしろい。下句を読んでからあらためて上句を見ると、「ちぎっては食べ」の繰り返しに迫力がある。
わが辞表受け取らざりし人なりき春一番の日に逝きたまふ
安永 明
職場の上司だったのだろう。作者の能力を評価し、身を案じて慰留してくれた人である。何年たっても、忘れられない出来事だったのだ。
ゆつくりと日のまはりゆく春の日に手紙を書けば手紙の来たり
福田恭子
下句がおもしろい。手紙を書いた相手ではなく、別の人からの手紙だろうと読んだ。のどかな春の感じがよく出ている。
過去からは逃げられないな まふたつの藍色のうつはに断面の
白 小田桐夕
上句と下句の取り合わせがうまい。表面は釉薬が塗られ絵付けもされているが、内側は白いまま。それが自分の過去を思わせたのだ。
県北のひとの会話にひと混じる「南の人」の不思議なひびき
浅野美紗子
同じ県に住む相手が使う「南の人」は「南国の人」ではなく「県の南部に住む人」の意味。その県の人にだけ通じる言葉遣いの面白さ。
ゆびさきにばんそうこうが見えている舞台衣装の女のひとの
高原さやか
舞台で演じている女性の素の部分が見えてしまったのだ。絆創膏という小さなものが、一瞬で舞台の世界を現実に引き戻してしまう。
あみだなに寝そべりあみのすきまからとろりと落ちてしまう
夕ぐれ 坂本清隆
スライムのように少しずつ形を変えながら落ちていく感じ。電車の中での空想だろうが、平仮名書きがなまなましい体感を生んでいる。
窓にうつる自分の影とむかひあふ一列ありぬTSUTAYAの夜に
岡部かずみ
店の外側の窓ガラスに向って立ち読みをしている人々。じっと動くこともなく、横一列になって黙々と雑誌などを読んでいる。
読みが巧い人に評やコメントをもらえると
励みになると同時にヒントになります。
そしてそれが聞きたくて歌会に参加しているように思います。
歌会では、またよろしくお願いいたします。
また歌会でお会いしましょう!