2017年06月19日

三浦英之著 『五色の虹』


副題は「満州建国大学卒業生たちの戦後」。

1938年に満州国の最高学府として、首都新京(現:長春)に設立された建国大学。そこでは「五族協和」の理念のもと、日本人、中国人、朝鮮人、モンゴル人、ロシア人の優秀な学生が集まり、6年間の共同生活を送っていた。

本書は彼らの栄光と挫折、そして戦後の苦難の歴史を記したノンフィクションである。

著者は建国大学の卒業生を訪ねて国内はもとより、中国、モンゴル、韓国、台湾、カザフスタンへも取材に行っている。その取材力、調査力、筆力に圧倒される。

敗戦による満州国の崩壊は、日本人の運命を大きく変えた。それだけでなく、他民族の学生もまた、傀儡政権の大学に通っていた「日本帝国主義への協力者」として、厳しい境遇に置かれることになったのだ。

理想と現実の違いや歴史を多面的に見ることの大切さを、あらためて強く感じる。近年の東アジア諸国との緊張関係を思う時、「民族協和」という理想は今もなお達成されていないのだと思わざるを得ない。

今年読んだ本の中でナンバー1。

2015年12月10日、集英社、1700円。

posted by 松村正直 at 21:05| Comment(4) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いま名古屋市美術館で「異郷のモダニズム−満洲写真全史−」やってますー 25日まで。
http://www.art-museum.city.nagoya.jp/manchoukuo
Posted by ぴりか at 2017年06月20日 22:46
おとといの朝日新聞の書評欄で、同名の写真集(展覧会の図録)が紹介されていました。名古屋まで行きたいと思いつつ、今週末は北海道集会があって行けません。残念。
Posted by 松村正直 at 2017年06月20日 23:06
送信したつもりが・・出来てませんでした!
これもすぐに注文してなんと今回は主人が先に読みたがり、一気に。
知らんことがおおいなー、とby夫。ドキュメンタリーですね。
ジャンルは全くちがうけど、イラスト入りで食べ物の世界(かなり前のここの紹介)を詳しく書いた、描いたのもすごくよかったです。日本の漢字も今日注文ました。楽しみ。
Posted by 豚肉を揚げる音 at 2017年07月09日 14:24
読書案内のお役になっているようで良かったです。
読みたい本は多いのですが、時間とお金との相談ですね。
今日も新聞の書評欄を見ていたら、買いたい本が3冊ありました。


Posted by 松村正直 at 2017年07月09日 16:02
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