日中戦争から太平洋戦争、そして終戦へ至る時期に詠まれた歌を紹介しつつ、戦況などの解説を加えた本。戦争を詠んだ短歌を「当時の人々の率直な思いが込められている貴重な戦史資料」として捉え、そこから歴史を学ぶという姿勢で書かれている。
支那兵の死に浮く水を汲み上げてせつなけれども呑まねば
ならず 上原酉松
汝が父の遺骨迎ふるも知らずして汽車にゆるるを喜びをりぬ
伊藤さよ子
大方は米国製なる工作機の耐用期間をわが思ひ見つ
山本広治
吾が前に少年二人戦ひに死にゆくことを事もなげにいふ
寺田幸子
手垢つきし愛(かな)しき本はわが名書きて征かざる友にわか
ち与へぬ 玉井清文
引用されている歌の選びが良い。ただし、句ごとに一字空けという形で引用されている点が気になる。
これは「幅広い読者を対象とする新書の性格に鑑み、読みやすさを優先して、基本的に五・七・五・七・七の五句体に区切って表記した」ということなので、仕方がないのだけれども。
2007年7月30日、幻冬舎新書、740円。