連作は「泥、そして花びら」30首と「春祭、post-truth」14首。
喉仏持たずやさしき春の鳩からくりのごと空へ弾けつ
「喉仏持たず」という把握が面白い。「からくりのごと」は最初鳩時計かと思ったが、手品師がハンカチから出す鳩の感じかもしれない。
溶接の面(おもて)に闇は広がりて蛍の火には触れず 触れたし
作業の現場の歌。溶接の火花を蛍の光に喩えているのだろう。結句の一字空けに力がある。
生活に仕事がやがて混ざりゆく鉄芯入りの靴で外へと
仕事で使う安全靴を履いて、休日などにちょっと外へ出掛けるところか。「鉄芯入りの靴」がいい。
聴力が先に捉えて振り返るヘリコプターに土踏まず見ゆ
ヘリコプターの脚(スキッド)を「土踏まず」と表現したのだろう。音が先に聞こえてくる感じもよくわかる。
移民の孫が移民を拒む寂しさの中でもうすぐ築かれる壁
移民の国アメリカで建設が進む国境の壁。トランプ大統領の当選後の時事的な話題を詠んだ歌だ。
歩きつつアップルパイを食べているpost-truthの時代の中で
上句の軽さと下句の不安感の取り合わせが現代的。初句・二句の「あ」の頭韻や、「プ」「パ」「po」の音の響かせ方がうまい。
2017年5月7日発行、500円。
先月の読書会の後の懇親会で、廣野さんたちお若い方々への年上の人たちの接し方が、愛情が感じられて心がほのぼのとしました。
一冊でも二冊でも売れると本人も喜ぶと思います。
若い方々が頑張っているのを見ると、励まされますね。