2017年06月04日

廣野翔一個人誌 「浚渫」

「連作2篇」「日記」「エッセイ」の三部構成。
連作は「泥、そして花びら」30首と「春祭、post-truth」14首。

喉仏持たずやさしき春の鳩からくりのごと空へ弾けつ

「喉仏持たず」という把握が面白い。「からくりのごと」は最初鳩時計かと思ったが、手品師がハンカチから出す鳩の感じかもしれない。

溶接の面(おもて)に闇は広がりて蛍の火には触れず 触れたし

作業の現場の歌。溶接の火花を蛍の光に喩えているのだろう。結句の一字空けに力がある。

生活に仕事がやがて混ざりゆく鉄芯入りの靴で外へと

仕事で使う安全靴を履いて、休日などにちょっと外へ出掛けるところか。「鉄芯入りの靴」がいい。

聴力が先に捉えて振り返るヘリコプターに土踏まず見ゆ

ヘリコプターの脚(スキッド)を「土踏まず」と表現したのだろう。音が先に聞こえてくる感じもよくわかる。

移民の孫が移民を拒む寂しさの中でもうすぐ築かれる壁

移民の国アメリカで建設が進む国境の壁。トランプ大統領の当選後の時事的な話題を詠んだ歌だ。

歩きつつアップルパイを食べているpost-truthの時代の中で

上句の軽さと下句の不安感の取り合わせが現代的。初句・二句の「あ」の頭韻や、「プ」「パ」「po」の音の響かせ方がうまい。

2017年5月7日発行、500円。
posted by 松村正直 at 07:27| Comment(2) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ご紹介してくださり、ありがとうございます。塔のHPの廣野さんのブログから、早速注文しました。届くのが楽しみです。
先月の読書会の後の懇親会で、廣野さんたちお若い方々への年上の人たちの接し方が、愛情が感じられて心がほのぼのとしました。
Posted by 藤田咲 at 2017年06月04日 11:23
「浚渫」をご注文いただいたとのこと、ありがとうございます。
一冊でも二冊でも売れると本人も喜ぶと思います。
若い方々が頑張っているのを見ると、励まされますね。
Posted by 松村正直 at 2017年06月05日 10:28
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