2017年06月03日

奥田亡羊歌集 『男歌男』

著者 : 奥田亡羊
短歌研究社
発売日 : 2017

「短歌研究」に8回にわたって連載された「男歌男」を中心に312首を収めた第2歌集。

流木の流れぬときも流木と呼ばれ半ばを埋もれてあり
森に行き人を殺して帰り来る子どもの話「ヘンゼルとグレーテル」
スタートを待つ一団に小さきが小さくなりて子の座りおり
月光をはじきてハクビシンとなる一瞬を見き動く気配の
ぶどうの皮をにゅっと出で来る挨拶のどこかで会った人なのだろう
月の夜を無蓋の貨車に運ばるる誰のいのちか桃の花盛り
大日本帝国連合艦隊司令長官搭乗機の展示されいるぐしゃぐしゃの翼
酔うほどに広くなりゆく卓上にしんと鋭き胡麻粒ひとつ
国をあげて造る古墳の葬列の二〇二〇年のこんにちは
赤い口あけて泣く子をあやしつつその子の父も赤い口ひらく

1首目、名前は流木であるがもう流れてはいない。
3首目、運動会の徒競走の場面。集団の中にいるわが子の小ささ。
4首目、一瞬照らし出されたハクビシンの姿が生き生きと捉えられている。
6首目、収容所へ送られるユダヤ人が思い浮かぶ。
8首目、酔った時の物の見え方はこんな感じ。遠近感が狂う。
9首目、東京オリンピックに対する痛烈な皮肉である。

連作を中心に構成された歌集なので、一首一首を単独で取り上げてもなかなか味わいが伝わらない。自らを「男歌男」と戯画的に詠む歌の中に、現代に生きる男性の苦しさや悲しみが深く滲んでいる。

2017年4月17日、短歌研究社、3000円。
posted by 松村正直 at 00:08| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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