上陸を待ちつつ甲板にありけるに、海豹の子の
波間にわれらを見るおもざし、白秋大人に似たりと
人々のはやせるに、戯歌一首よみておくれる
わが兄子(せこ)に似たる海豹(あざらし)波間よりまなじりさげてわれを見にけり
『樺太を訪れた歌人たち』の中で、私はこの歌について次のように書いた。
アザラシのことを「わが兄子」(=白秋)に似ていると詠んで面白がっている。『フレップ・トリップ』に掲載されている写真を見ると、白秋は当時、鼻の下に髭をはやしているので、そうした点も含めて揶揄しているのかもしれない。いずれにせよ、気の置けない仲間同士の寛いだ旅の雰囲気が伝わってくる一首と言えそうだ。
『フレップ・トリップ』掲載の写真とは、これ。
白秋というのはすごい人だ。アザラシ(オットセイ)に似ているとからかわれたのを逆手に取って、オットセイ踊りを自ら作り余興として演じていたわけである。
白秋の写真は『樺太を訪れた歌人たち』には無かったので、ブログ掲載ありがたいです。なるほど、からかわれたのをむしろ喜んだのですね。白秋の人柄とか、庄亮との関係とかがうかがえるエピソードです。
由利貞三の名は松村さんの本には出てこなかった気がしますが、斎藤史の記憶違いでしょうか。
オットセイ踊りの話は史の随筆集『遠景近景』にも少し書いてあります。
「 「よし、今度は、おっとせいの踊り ―」/また白秋が替わる。先年の北方旅行で見て来たおっとせい。波間に顔を出して、ゆらりゆらりと揺れたりもぐったりするところ。― 髪の毛を前へ垂らしてつるりとした感じにした頭も、鼻下のひげも、いかにもそれらしいものに見えて来るからふしぎであった。」(93頁)
「短歌も表現、踊りも表現、詩も、小唄も、みな表現。南の国の血を持つ人は、ときに心のままに無邪気に遊ぶ。」(同頁)
こちらもご参考にどうぞ。
また、白秋たち一行の樺太旅行の記録として『鉄道省主催高麗丸樺太巡遊記念写真帖』という本があり、そこに乗船名簿も載っているのですが、由利貞三の名前は見当たらないようです。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/920898
斎藤史の『遠景近景』のご紹介、ありがとうございます。白秋の樺太旅行の後日譚として貴重な記録ですね。