三人の子は三様の声なれど三様にしてわれと似てをり
千名民時
別々の声なのだけれど、それぞれにどこか自分と似ている。声を通じて親子という関係をあらためて捉え直した歌。
瘤白鳥 沼に生まれて沼にすみ沼より出でずひくく空とぶ
田中ミハル
「沼」を三回繰り返したところが良い。「白鳥」ではなく「瘤白鳥」であること、また「ひくく」という表現にも、翳りが感じられる。
食事終へて気づきぬ背後に立つものが人ではなくてゴムの木
だったと 野 岬
レストランだろうか。何かが立っている気配をずっと感じながら食事をしていたのだ。拍子抜けしたような気分がよく表れている。
食欲のまたなくなりし吾がために夫は山形の「とびきりそば」
求めき 岩淵令子
ネーミングが面白い。きっととびきり美味しいそばで、作者の好物なのだろう。少しでも食べられるものをと考える夫の愛情もよく伝わる。
牛乳代百円もらいに娘たちのれんをくぐり男湯へゆく
茂出木智子
お金を持っている父親がいるのだ。まだ幼くて無邪気に男湯へと入って行く娘たち。数年もすれば見られなくなる光景である。
デスクには「白い恋人」二枚あり忌引を終えし同僚からの
和田かな子
同僚は北海道の出身なのだろう。忌引明けに職場のデスクにお土産を配って回ったのだ。「白い恋人」二枚という具体が効いている。