2017年03月24日

「塔」2017年3月号(その2)

三人の子は三様の声なれど三様にしてわれと似てをり
                   千名民時

別々の声なのだけれど、それぞれにどこか自分と似ている。声を通じて親子という関係をあらためて捉え直した歌。

瘤白鳥 沼に生まれて沼にすみ沼より出でずひくく空とぶ
                   田中ミハル

「沼」を三回繰り返したところが良い。「白鳥」ではなく「瘤白鳥」であること、また「ひくく」という表現にも、翳りが感じられる。

食事終へて気づきぬ背後に立つものが人ではなくてゴムの木
だったと               野 岬

レストランだろうか。何かが立っている気配をずっと感じながら食事をしていたのだ。拍子抜けしたような気分がよく表れている。

食欲のまたなくなりし吾がために夫は山形の「とびきりそば」
求めき                岩淵令子

ネーミングが面白い。きっととびきり美味しいそばで、作者の好物なのだろう。少しでも食べられるものをと考える夫の愛情もよく伝わる。

牛乳代百円もらいに娘たちのれんをくぐり男湯へゆく
                   茂出木智子

お金を持っている父親がいるのだ。まだ幼くて無邪気に男湯へと入って行く娘たち。数年もすれば見られなくなる光景である。

デスクには「白い恋人」二枚あり忌引を終えし同僚からの
                   和田かな子

同僚は北海道の出身なのだろう。忌引明けに職場のデスクにお土産を配って回ったのだ。「白い恋人」二枚という具体が効いている。

posted by 松村正直 at 10:16| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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