一つは「サハリン」の歌。
秋ははや至りておらんサハリンのかたに海霧また深くなる
北海道に生まれ育った人にとって、サハリンは割と身近な存在であったのだろう。しかも坂田は戦前の昭和12年生まれ。坂田が8歳の時まで樺太は日本の領土であったのだ。
もう一つは縊死の歌である。
縊れ死ぬユダのなげきに膚接して爪先だちて劇を観ている
獣肉を吊るせる大鉤をみていしが縊れんとする吾にあらねば
坂田が24歳で縊死した事実を知っていて読むと、何か予感のようにも思われる歌である。
もちろん、それは結果論に過ぎない。けれども、歌が予言として作用することも確かにあるような気がするのだ。