久しぶりに小説を読んだけれど面白かった。
電車の中で物語を読んでいると、時々自分が今どこにいるのかわからなくなる。
どこまで行っても空には雲ひとつなく、地上には終始飛行機の影が映っていた。正確に言えば我々は飛行機に乗っているのだから、その山野を移ろう飛行機の影の中には我々の影も含まれているはずだった。
「あなたが知ってると思ってるものの殆んどは私についてのただの記憶にすぎないのよ」
寂しさというのは悪くない感情だった。小鳥が飛び去ってしまったあとのしんとした椎の木みたいだった。
読み終った時にちょうど電車が京都駅に着いた。
読み終っていなかったら乗り過ごしていたかもしれない。
2004年11月15日第1刷発行、2014年4月21日第27刷発行。
講談社文庫、500円。