「豊かの海」「水のはしら」「静かの海」「ポーズ」と各10首の連作が4篇収められている。
ともだちが彼氏のぐちを言うあいだおもちゃ代わりになる角砂糖
角砂糖を紅茶に溶かしたりしながら、黙って話を聞いているのだろう。「ぐち」と言っても深刻なものではなく、多分にのろけ交じりの話。
感情はがらくだだよね ひだまりの蓮をゆめみてはしるバスたち
初二句と三句以下のつながりが不思議な歌。作者もバスに乗りながら、ぼんやりと蓮池の光景を思い描いているのかもしれない。
うつしみに鎮痛剤がはなひらく再放送のような部屋にて
鎮痛剤が効いてくる体感を「はなひらく」と言ったのが面白い。下句、そう言えば前にもこんなことがあったなと感じたのだろう。
それぞれのイオンモールをねむらせて衛星都市におとずれる月
イオンモールは郊外の象徴的な存在だ。深夜、灯りの落ちたイオンと空に輝く月。「衛星都市」と地球の衛星である「月」が響き合う。
じゃがバターほおばっているきみのままずっとそうしていればいいのに
じゃがバターをハフハフしながら食べている恋人。何でもない日常の一コマだけれども、そうした日々にもいつかは終わりが来てしまう。
明晰で緻密な歌というよりも、全体にふわっと意識が遠いような感じがあり、現実からちょっと逸れているところが面白い。
2017年1月22日発行。