全体をざっと眺めていて、一つの発見があった。
それは昭和26年の次の歌である。
樺太の奥鉢(おくばち)山をおもふなりそこにもありしごぜん
たちばな 『石に咲く花』
ごぜんたちばな(御前橘)は高山に育つ植物で、石川県の白山(御前峰)が名前の由来となっている。
1首前には〈高山のごぜんたちばな紅葉して葉が散りおちぬ霜ふりしかば〉という歌がある。どこかの山でごぜんたちばなを見て、戦前の樺太の奥鉢山で見たごぜんたちばなを思い出したのだ。
松村英一は『樺太を訪れた歌人たち』にも書いたように、昭和12年に樺太を訪れている。その時、奥鉢山に登って「ごぜんたちばな」の歌を詠んでいる。
霧の湧く湖を見おろす岩山に花は過ぎたるごぜんたちばな
さらに言えば、奥鉢山には昭和14年に松村の歌碑が建てられたのであった。そんな縁の深い山のことを、戦後になっても松村はちゃんと覚えていたのである。
http://matsutanka.seesaa.net/article/444540538.html
奥鉢山の歌碑は今どうなっているのだろう。
いつか確かな情報をつかんで、現地に探しにいきたい。