聞こえざる耳傾けて聞かむとし目の前にある天婦羅食へず
「角川短歌」2月号
わが思惟はいま活発にうごきをり雨に打たるる石見つつゐて
「短歌研究」2月号
亡くなりしひとはこの世に会へぬなりその当然をなぜまた思ふ
「歌壇」2月号
それぞれ31首、15首、20首の連作。「現代短歌」2月号にも7首載っているので、あわせて実に73首(!)だ。
橋本さんは昨年11月に歌集『行きて帰る』を出されたので、それを受けて原稿依頼したところ、たまたま重なったということだろう。しかも、巻頭作品が何人かいる時は年齢順に並べるのが慣習なので、3誌とも橋本さんが一番最初になったわけである。
このあたりに総合誌の編集方法の限界を見ることもできるわけだが、橋本さんに注目が集まること自体はとても嬉しいことだ。『行きて帰る』も味わいのある良い歌集であった。
http://matsutanka.seesaa.net/article/443295594.html
結社誌「まひる野」の巻頭も橋本さんである。
歓びと驚きとそして可憐さを まあ。の一字に伝ふる手紙
「まひる野」2月号
後記によれば、橋本さんは昨年末を持って「まひる野」の編集委員を退任されたとのこと。
○昨年十二月を以て編集委員(運営委員)を辞することにしました。視覚障害が進み選歌の責任が十分に果たせないと判断したことが最大の理由です。昭和23年夏、入会するや編集のお手伝いから始まって、編集・運営に関するすべてを経験し、じつに多くのことを学びました。七十年近い作家生活の根源にはこれらの仕事による「まひる野」への愛着がありました。もちろん退会するわけではありません。これからは一会員として作品を(時には文章も)発表したいと思います。多くの病気をかかえる身ですが、この書屋爽庵でたのしく歌の生活をつづけたいと念じています。ときにはどうぞ、お尋ねください。(橋本)
書き写しているだけで涙がこぼれそうになる。
長年たずさわってきた役割を離れて、今どんなにか寂しいことだろう。
本当にお疲れさまでした。