2017年01月23日

浅井淳子著 『たったひとりでクリルの島へ』

副題は「ホームステイでサハリン、北方領土を行く」。

1990年11月にテレビ番組のレポーターとして戦後の日本人女性としては初めて北方領土を訪れた著者が、翌1991年8月に、今度は個人で北方領土を訪れた記録である。

四半世紀以上前の記録なので現在とは状況が異なっている部分もあるが、それでも北方領土の旅行記は少ないので貴重である。全4章の構成で「1サハリン」「2択捉島」「3色丹島」「4国後島」となっている。

ホームステイ先の人々との交流や町の様子、軍事基地、サケの加工場、日本人の墓、カニ漁、ハイキング、温泉を訪れた話など、どれも興味深い。

もちろん、領土問題についての様々な意見も収められている。

【著者】
ソ連は、クリルをどう考えているのだろう。日本と根本的に違うところは、領土は伸び縮みすると考えている点だろう。(…)ロシアはさまざまな隣国、トルコや西ヨーロッパと戦い、敗れ、勝利して、世界一の大国になったのである。だから、領土は“固有”という考え方ではなく、戦争により書き替えられるという考え方なのである。
【サーシャ(択捉島のクリリスク博物館の助手)】
日本はイトルプを自分の土地だとばかり言うけど、それは一八〇〇年代にロシアとの条約で決めたことでしょ。たかだか二〇〇年の歴史だよ。その前の数千年、アイヌとアイヌの先祖が島には住んでいたんだ。(…)日本に返せというなら、アイヌの人たちに返せというのが正しいだろう?
【ニコライ(南クリル地区の人民代議員議会議長)】
私が一番言いたいのは、クリルには二世代、三世代の人たちがここを故郷として島で生まれ、生活しているということなんです。一九四五年から長い時間が経ち、島には私たちの歴史もあるんです。私たちからすると、日本の人たちはそういうことは念頭に置いてないような気がするんです。

四半世紀前のこうした話を読むと、北方領土問題の解決がいかに難しいかがよくわかる。私としては、旅行者の自由な往来が早く可能になることを願うばかりだ。

1992年9月20日、山と渓谷社、1200円。

posted by 松村正直 at 20:28| Comment(0) | 樺太・千島・アイヌ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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