2017年01月15日

中沢新一著 『ポケモンの神話学』


副題は「新版 ポケットの中の野生」。

2004年に新潮文庫から刊行された『ポケットの中の野生 ポケモンと子ども』に加筆修正し、新たな序文を収録したもの。昨年の「ポケモンGO」の大ヒットを受けて、20年前に出た本(単行本は1997年の刊行)が新装版になって登場したわけだ。

と言っても、単なる便乗商法というわけではない。本書には「ポケモンGO」の登場を予言するような内容も含まれているのである。

私がじっさいにこのゲームについて話をしてみた子どもの何人かは、『ポケモン』に夢中になりだしてからというもの、近所にあるちっぽけな藪や公園の草むらから、ふいに「ポケモン」みたいな変な生き物が飛びだしてきそうな気配を感じるようになって困った、と話をしてくれた。この子どもたちにとっては、ゲーム機の中でおこっていた「多神教的感覚」が、そのまま現実の町の中で働きだしてしまったのである!

ゲームの世界と現実の世界が融合する。ポケモンというゲーム自体が、もともとそうした可能性を秘めていたということなのだろう。

それにしても、レヴィ=ストロースの「野生の思考」など人類学や神話学の理論によって、ポケモンというゲームを分析するというのは魅力的な試みだ。学問は本棚に埃をかぶっているものではなく、今の社会や暮らしを生き生きと解き明かすものなのだ。

RPGの旅に出た主人公の心の構造と、道の途中でそれに襲いかかってくる敵対者とは、もともと同じ本質を持ったもので、ただあらわれ方がちがうというだけで、いっぽうはエロスと呼ばれ、もういっぽうがタナトスと呼ばれることになっている。
宇宙創造以前の力が、ことばによって物質性に執着をおこすと悪魔が生まれる。その反対に、ことばによって知性化を果たすと天使になる。悪魔と天使は、このようにもともとは同じ存在なのだ。
贈与される品物には、贈り主の人格の一部がかならず付着している。品物と人格が一体となって、じつは贈与品というものはできあがっているのである。

2016年10月20日、角川新書、800円。

posted by 松村正直 at 20:21| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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