締切に関するエッセイ、手紙、日記、マンガ、研究など、計94篇を集めたアンソロジー。
夏目漱石、志賀直哉、江戸川乱歩、松本清張、手塚治虫、大澤真幸、小川洋子ら、近代以降の作家、マンガ家、評論家がそれぞれの立場から締切の苦しみや対処法、さらには効用などを書いている。
締切に直接関わらない部分もおもしろい。
実際、一つのセンテンスにうっかり二つの「て」切れが続いても、誰でも作家は後で皮を斬られたやうな痛さを感じるものである。
横光利一「書けない原稿」
生きている人間の見た言葉にも通わせ、そこからいつでも人間が生きている世界にまた戻ってくることが出来るのでなければ、言葉が相手の商売も大して意味がない。
吉田健一「身辺雑記」
書きたいという主題があっても、それを適当にひっかける一つのイメージがつかまらないと、どうしても筆をおろせない。
遠藤周作「私の小説作法」
仕事にかかるのは気迫だが、仕事をし終えるには諦めが必要である。大論文を書こうと思ったら決して完成しない。
外山滋比古「のばせばのびる、か」
いまの私が、どうやら、自分の段取りをつけられるようになったのは、戦争中に徴用され、芝浦の工場で旋盤工をしていたときの経験が基本になっている。
池波正太郎「時間について」
ものを書く時の心構えや考え方など、参考になる話がたくさん載っている。
奥付を見ると、「印刷・製本 創栄図書印刷株式会社」とある。「塔」の印刷をお願いしている会社だ。
2016年9月20日、左右社、2300円。