現代歌人シリーズ13。
2012年から2016年までの作品371首を収めた第3歌集。
ヴィオロンのG線上を移動する点Pとして指ひかりゐつ
カメレオンに見せてみじかき吾が舌は風にすこしく乾きゐたるも
成分は木星にちかいときみが云ふ気球を丘の風に見てゐつ
みづのなかで聞こえる声は誰の声こぷりと響(とよ)めばぷこりと返し
性別が名を産むあさな性別を名が産むゆふな風を見てをり
つよく捺す判に張りつき浮きあがる手術同意書 はがれてゆきぬ
あやまたず父となるべし蕪の葉を落してまろき無を煮込みつつ
0歳を量らむとしてまづ吾が載りて合はせぬ目盛を0に
眸(まみ)ふかく映してやりし遠花火に教へてゐない色ばかりある
本島を沖縄と呼ぶ離島にも離島はありて其の離島にも――
1首目、バイオリン奏者の指の動きを、まるで数学の問題のように捉えているところが面白い。
3首目、気球の中にあるガスの成分の話。
4首目、宮沢賢治の「やまなし」を思い出す。
5首目、「生まれてくる子が男だったら〇〇、女だったら△△」と2つの名前を考えることがあるけれど、男女で名前が違うというのもよく考えれば不思議なことだ。
7首目、「蕪」から草冠を除くと「無」という言葉遊び。
8首目、抱っこする自分を器のように捉えて、いわば風袋引きをしているところ。
10首目、「中心―周辺」の関係性というのは、「本土―沖縄」だけでなく実は何層にも積み重なっているのである。
結婚、石垣島への転居、子どもの誕生など、境涯を反映した内容の歌が多くある。特に子どもを詠んだ歌は、質・量ともにこの歌集の中心をなしている。
歌集のタイトルは、ペットの「ウーパールーパー」を持って飛行機に乗ったことにちなんだもの。「ウーパールーパー」がメキシコサラマンダー(メキシコサンショウウオ)という山椒魚の一種であることを初めて知った。
李白の漢詩、ゲーテの「ファウスト」、トレミーの48星座、ネーナの楽曲など、幅広い教養を活かして工夫を凝らした連作が多い。連作を構成する意識の強い作者と言って良いだろう。
2016年12月21日、書肆侃侃房、1900円。