花火の音をこわがる子を抱いて母でしかない夜を肯う
春澄ちえ
小さな子なので家に聞こえてくる花火の音を怖がるのだろう。「母でしかない夜」という表現が強烈で、それを「肯う」と言い切ったところに強さを感じる。
滝のぼるごとくうねりて塩まとひあゆはじりじり焼かれてゆきぬ
足立訓子
うねるような姿で串に刺されている鮎。初二句で生き生きとした姿が思い浮かぶだけに、下句の現実との落差が哀れを誘う。
新選組の羽織の色を思はせてアサギマダラの庭に舞ひをり
黒瀬圭子
アサギマダラと言うと長距離を移動することや藤袴の蜜を吸うことがよく題材になるが、これは水色と黒の色に着目している。そう言えば、羽織もひらひらする。
スカートをはかなくなってもう二年 置き去りの足が砂浜にある
大森千里
下句がとても印象的。スカートから出ていた素足が、今もそのまま砂浜に残されているようで、寂しさが滲む。年齢的なことだろうか。
新刊の本の間に栞紐「の」の字うっすら紙に沈めて
平田瑞子
結句の「沈めて」という動詞が良い。栞紐の跡が本に付いている光景はよく詠まれるが、これは「沈めて」で歌になった。
4の段を終へて5の段6の段 6×7(ろくしち)あたりでいつも
つまづく 加藤 宙
確かにそうだよなあと思う。九九の間違えやすいところ。計算というよりも発音しにくいことが関係しているような気がする。