2016年12月08日

佐藤佐太郎著 『作歌の足跡―「海雲」自註―』


佐藤佐太郎は昭和46年に自選歌集『海雲』を刊行している。第7歌集『群丘』の後半から第9歌集『形影』までの歌の中から500首を選んだものだ。

本書はその『海雲』の自家自註である。さらに「及辰園百首」(第1歌集『歩道』から第10歌集『開冬』までの歌から100首を自選したもの)の自註も載せている。

自註と言っても、単に歌の背景を明かすだけでなく、歌作りの参考になる話がどんどん出てくる。読んでいて実におもしろい。

「山にひびかふ」は実際の感じでもあったが、このように二つのものを関係させるのが、多く私の表現法である。
少しの言葉で多くのことを言うのは表現のよろこびでもある。
驚くなら驚いてもいい事柄だから「うちつけに」と言ったが、この虚語が割合に働いているようである。
歌は虚と実の緩急によって調子が出る。枕詞は虚である。
確かに言うのが短歌の問題のすべてである。その上に言葉に経験の声としての詠嘆をこめるのが短歌である。
必要のない事を言つて味ひの添ふのは詩の常である。

まさに箴言というべき言葉ばかりだと思う。歌作りの理論に関して言えば、佐太郎を超える人は今もまだ現れていないのではないか。

1980年9月20日、短歌新聞社、1500円。

posted by 松村正直 at 20:23| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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