2016年12月06日

山野井洋と幼児(その3)

必死の看病の甲斐もなく、山野井の子は2歳に満たない命を終えてしまう。「ポドゾル」昭和14年4月号には「幻の幼児」と題する山野井の作品10首が掲載されている。

光さす北のみどり野(ぬ)肩はばのたくましき子をしかとい抱きぬ
手ごたへのたしかなりしも夢なれや高あげし吾子(あこ)わが手になしも
子が逝きて四十九日のあけがたに命ある子を抱きし夢を見ぬ
病みてより門歯にはかにのびて見ゆ吾子(あこ)のあはれは妻にはいはず
春来(く)とも草は萌ゆとも我が家(いへ)に病みやつれたる妻と二人(ふたり)ぞ
いやいやと臨終(いまは)のきはに泣きたりしあはれを思ひ真夜に泣くかも

一連は夢の場面から始まる。「光さす北のみどり野」には生命力が溢れている。けれども、そこに出てきた子はもう亡くなっているのだ。

残された妻と二人きりの日々。折しも季節は春を迎えようとしている。けれども、愛する子はもうこの世にいない。

死ぬ間際にまるでいやいやするかのように泣いた子。近代短歌には子を亡くす親の歌が数多くあるが、山野井の歌も哀切きわまりない。

posted by 松村正直 at 00:02| Comment(4) | 山野井洋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 和尚の短歌視座  秀歌逍遥(133)

   ほかにも、松村氏、大森氏の歌
Posted by 小川良秀 at 2016年12月06日 10:58
新アドレス
Posted by 小川良秀 at 2016年12月17日 09:17
河野裕子の歌十首とりあげています、ご覧ください。
Posted by 小川良秀 at 2016年12月17日 11:43
秀歌逍遥、かんぜおん、が移動しました。
Posted by 小川良秀 at 2017年01月15日 14:32
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