すべり台使わんとして登る娘の少し死者へと近づく高さ
鈴木四季
下句に驚かされる。地面に立っている時よりも少しだけ死者に近いという感覚。落ちたら危険ということも含めて、何となく納得させられる。
人生はあなたなしでも続くから盆の終わりに小さく泣くよ
大橋春人
どんなに掛け替えのない人の死であっても、残った人の人生はその後も続いていく。「泣く」ではなく「泣くよ」なのがいい。
輪郭のぱりりと軽い鯛焼きに口をあてては熱を食みゆく
小田桐夕
鯛焼きを食べているだけの歌だが、「輪郭のぱりりと軽い」「熱を食みゆく」という修辞が的確で、必要十分な歌に仕上がっている。
その死からもっとも遠き日の顔で叔母が笑えり写真のなかに
菊井直子
まだ元気で生き生きとしていた頃の写真が遺影となっているのだろう。反対に言えば、亡くなる前はそういう姿ではなかったということだ。
どちらかと言えば仕事の愚痴を聞く側で積まれる枝豆の鞘
山口 蓮
愚痴をこぼす方も大変だが、聞く方も大変である。作者は性格的にいつも聞く方になってしまうのだろう。「枝豆の鞘」の空虚感。
和尚の短歌視座 秀歌逍遥(30)