沈む陽は窓より深く射し入りて冷蔵庫の把手しばし耀ふ
田附昭二
夕方の陽ざしが家の奥まで射し込んで来て、金属の把手部分を美しく光らせている。その輝きはやがて消えてしまうものだ。
少女とわれの夏の時間はみじかくて西瓜の種をならんで飛ばす
石井夢津子
「少女」はお孫さんだろうか。ありふれた何気ない場面。でも、それが掛け替えのない時間であることを作者は知っている。
客二人乗務員一人ゴンドラは霧に見えざるロープを下る
久岡貴子
「客二人」は作者と連れの人なのだろう。唯一の頼りであるロープが見えないことの不安と楽しさ、そして浮遊感。
倒木の覆ふ流れを汲みて飲む木の香を帯ぶる冷たき水を
富樫榮太郎
「木の香を帯ぶる」がいい。山の中のきれいな流れなのだろう。歩き疲れた身体に鮮烈にしみてくる。
肢そろへ横腹見せて寝ねてをり殺されやすき姿で犬は
野 岬
よく見かける光景であるが、下句にハッとさせられる。確かに、横腹を見せるというのは、野生の動物とは違う無防備な姿なのだ。