2016年10月31日

伊藤桂一さん

『蛍の河』『静かなノモンハン』などの戦場小説で知られる作家、伊藤桂一さんが亡くなった。99歳。

以前、軍馬についての文章を書いた際に、伊藤さんの『私の戦旅歌とその周辺』を随分と参考にさせていただいた。伊藤さんは戦時中、騎兵聯隊の一員として中国大陸を転戦された方で、短歌も詠まれている。

騎兵の乗馬法は、上手に乗ることではなく、長く、怪我をさせずに乗ることである。作戦間に馬が脚を痛めたり、鞍傷を起こしたりすると、どうしようもなくなる。鞍を置く時には、馬の背と鞍下毛布との間に異物(それがきわめて小さな塵でも)がはさまれていないかどうかに細心の注意をする。

こうした細かな点などは、実際に体験した人にしか書けないところと言っていいだろう。

耳もてば耳持たせつつ頸(くび)を寄すこの馬といて征旅を倦(う)まず
曳光弾馬の鬣(たてがみ)とすれすれに迫りくるなり遮二無二駈くる
馬は草を食(は)みつつもふと耳を上ぐ聞きそらすほど遠き砲声
                   『私の戦旅歌とその周辺』

ご冥福をお祈りします。

posted by 松村正直 at 20:56| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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