台所中にちらばる飯粒を拭きおえしのち焼飯を食う
田村龍平
相当豪快にフライパンを振ったんだろう。でも、食べる前にちゃんと拭いているところが微笑ましい。一人の食事の感じ。
バスの窓ガラスに額を押しつけて昆布のゆらぐ海を見ており
松浦わか子
旅先の風景だろうか。海岸沿いを走るバスから、海の中に揺らめく昆布が見えるのだ。「額を押しつけて」に体感がある。
トンネルの合間にのぞく熱海から秘宝館など見つけるあそび
山名聡美
今では全国でも数少なくなった秘宝館。新幹線の車窓から眺めているのだろう。上句の描写が的確で、「のぞく」という語の選びが良い。
屋久島できかぬ名まへと尋ねれば種子島から来たのだと言ふ
山尾春美
島によって特徴的な名字があるのだろう。例えば対馬には阿比留さんが多い。隣り合う屋久島と種子島でも随分と違うのだ。
封筒に息をふきこみふくらませ遠くの人への手紙を入れる
高原さやか
息を吹き込むのは封筒を広げるためだが、相手に思いを届ける祈りのようでもる。「遠くの人」がよく効いている。
何にでもなれる(なれない)者としてビニール傘をコンビニで買う
山口 蓮
人は何にでもなれる可能性を持ちながら、実際は何にでもなれるわけではない。その二面性が、色のないビニール傘とよく合っている。