ときをりは薄暗がりに溶けてをり書棚の隅の二ポポ人形
川田伸子
「二ポポ人形」は北海道でよく売られているアイヌの人形。「溶けてをり」がおもしろい。忘れられたように長年飾られている人形の感じ。
才能がなくてと謝り食べているいわしフライのいわしの体を
片山楓子
「いわしフライを」なら普通だが、「いわしフライのいわしの体を」としたのが良い。やるせない思いが滲み出ている。
炎天にはためく「氷」の波がしらをくぐりて母といもうとは消ゆ
田中律子
家族に対するかすかな屈折を感じさせる歌。上句の描写が、かき氷の旗を吊るした店の様子を端的に表している。
猫避けに眼のよく光るふくらうを日日草の中に置きたり
祐徳美惠子
本物のふくろうかと思って読んでいくと、実は置物のふくろうの話。目が光るようになっているのだろう。
あまやかな水にいくすぢかたちのぼる気泡はほそき鎖のごとし
小田桐 夕
グラスの底から立ち昇る炭酸飲料の泡を「ほそき鎖」に喩えたのが秀逸。泡を見つめる作者の繊細な意識まで感じられるようだ。
二人では折り畳み傘は小さくて香林坊の雨に駆け出す
濱松哲朗
香林坊は金沢の繁華街。映画のシーンのように突然の雨に走り出す二人。迷惑というよりは、どこか楽しんでいる気分が伝わってくる。