テロやイスラム国などの問題をめぐって最近よく話題になる「イスラム(教)」について、長年にわたって研究してきた著者が、中東滞在の経験も踏まえて記した本。要点がわかりやすく、また書き方も非常にフェアであると感じる。
イスラムの大きな特徴は、商売人の宗教として生まれたということです。ここはよく誤解されていますが、沙漠の宗教でも、遊牧民の宗教でもないのです。イスラムは都市の商人の宗教として誕生した。
イスラムがユダヤ教やキリスト教をどうみているかは、イスラム教徒の名前をみればよくわかります。(・・・)先代のトルコの首相はダウトオウルという読みにくい名前ですが、ダウトというのはダビデのこと、オウルというのは息子の意味ですから、「ダビデの息子」という名前をもつ人がトルコの首相をつとめていたのです。英語ならDavidsonです。
彼らに「イスラム教徒でなくなるってどういう感じですか?」と聞いたときに返ってくる言葉。どんなに世俗的に見えるイスラム教徒でも決まってこう言います。
「人間でなくなる感じがする」
こうした丁寧な説明や実例が、いくつも挙げられている。
一五億人とも一六億人ともいわれるイスラム教徒の姿を西欧経由のめがねを通して見る必要はありません。もっとふつうに、市民としての生活のなかで彼らがどういう価値観をもち、どういう行動をする人なのかを知ることのほうが、はるかに大切です。
世界の人口の3人に1人はイスラム教徒になるという時代にあって、彼らをどのように理解し付き合っていくかは、大きな課題であろう。そのための格好の手引きとなる一冊である。
2016年7月21日発行、ミシマ社、1600円。