銀髪の婦人のやうな冬の日が部屋に坐しをりレースをまとひ
海風に髪の湿りてぺたぺたす淋代(さびしろ)といふ浜にむかへば
夕映えに滲みつつともる観覧車誰かを迎へに行きたき時間
ひんやりと馬肉の赤身はそのむかし打ち身をくるんでゐたのよといふ
いやあ、あかん どうもあかんね寒中を叫びつつ風が走りてゆけり
かたむきてボタンの穴をくぐりたるボタンのやうなかなしみに居る
獅子頭の口の奥より被災せしこの世見てゐるほの暗き顔
母の髪しだいに明るくなりてゆき陽に透きてけふはもろこしのやう
草むらにさざなみのたつ上げられし鮒が跳ねつつ草濡らすとき
赤き玉とろりとできてこぼさなかつた泪のやうな線香花火
ふるさとの八戸や、六ヶ所村、三沢を詠んだ歌、学生短歌会の頃からの知り合いである田中雅子、佐々木実之の死を詠んだ歌、老いてゆく両親の歌など、全体にずっしりと重い手応えのある一冊。深い悲しみが感じられる。
1首目、「銀髪の婦人のやうな」という比喩が秀逸。
3首目、迎えに行くというのも相手がいなければできないことなのだ。
5首目、話し声が風に乗って聞こえてきたのだろう。
6首目、「かたむけて」がいい。確かに傾けないと留められない。
8首目、明るい話かと思って読んでいくと、結句に寂しさがある。
9首目、川岸で釣りを見ている。鮒の動きが何ともなまなましい。
2016年9月16日、短歌研究社、2700円。