勉強会、はた宴会と騒ぎいしかの日のボンジョルノ難波はいずこ
小川和恵
イタリアンレストランだろうか。若かった頃によく仲間たちと利用していた店が、今では姿を消している。残っているのは思い出だけ。
やわらかきところを鍬の刃にさぐりひとふりふたふり竹を倒しぬ
吉川敬子
「さぐり」がいい。鍬を持つ手に伝わってくる感覚がよく表れている。竹を倒すにも力任せではだめで、コツのようなものがあるのだろう。
かあさんはやさしいねえと育親書でも読んだみたいに眠る間
際を 宇梶晶子
褒めて育てる方法が書いてある育児書のように、親にいたわりの言葉を掛けてくれる子ども。やさしくない自分に気付いているだけに胸が痛むのだ。
通勤の橋わたるとき海へ吹く風はパルプの匂いをはこぶ
小林貴文
橋の上はよく風が通る。上流の方から匂いが流れてくるのだろう。朝の通勤で仕事へと向いていた意識が、その瞬間だけ少し緩むのだ。
ちょる、ちょると耳をくすぐる方言が飛びかうテーブル揺りかご
のよう 大森千里
故郷に帰った場面だろう。「ちょる、ちょると」がおもしろい。「〜しちょる」という語尾が心地よく響いて、懐かしさと安心感に包まれている。