副題は「〈カンカン部隊〉を追いかけて」。
朝早く大きな荷物を持って鉄道に乗り、魚の行商に出掛ける人々。彼女たちは運搬用のブリキ製のカンにちなんで「カンカン部隊」とも呼ばれた。戦後から高度経済成長期にかけて活躍した行商人たちの歴史と生活を描いた探訪記。
伊勢湾で獲れた魚を近鉄の専用列車で大阪まで運ぶ人々、鳥取から因美線で県境を越えて岡山県北部に魚を売りに行く人々、鳥取の泊から山陰本線・旧倉吉線に乗って、倉吉近郊へ行く人々。魚の獲れるところから、魚を求める人のいるところへ、鉄道を使って多くの行商人が魚を運んだ。
その姿を追ううちに、著者は多くのことに気が付く。
漁師という職業は、自分で食べるために魚介類をとるわけではない。その魚介類を売るためにとる。農産物の場合、特別な商品作物以外は自給用を兼ねるものが多いが、海産物は、あくまで交易と流通を前提にしているところに特徴がある。
正月に魚を食べるという地域は、全国各地に広がっている。中には、海から遠く離れた山間地であることも珍しくない。正月と海の魚。この関係こそが、実のところ日本人にとって魚が大切な食材であることの原点なのである。
日本の列車は、規則正しく、そして確実で安全な移動手段である。ただしそれだけに留まるものではない。鉄道は、人と人とをとり結ぶ時空間を運ぶ乗り物なのである。
どれも、魚の行商や日本人と魚の関わりを考えるうえで大切な観点であろう。
2015年12月10日、創元社、1800円。