2015年10月、情報処理学会は「トップ棋士との対戦は実現していないが、ソフトは事実上トップ棋士に追い付いた」と宣言した。今年から始まった電王戦においても、将棋ソフトがプロ棋士に2連勝している。
このように将棋ソフトが年々進化を続ける状況下で、棋士たちは何を考え、どのような将棋を指し、今後をどう見ているのか。著者は、羽生善治、渡辺明、勝又清和、西尾明、千田翔太、山崎隆之、村山慈明、森内俊之、糸谷哲郎、佐藤康光、行方尚史という11名の棋士にインタビューをしている。
将棋ソフトとの付き合い方はそれぞれで、徹底的に活用している棋士もいれば、ほとんど触らない棋士もいる。それでも将棋界全体として考えると、ソフトのもたらした影響にはかなり大きなものがあるようだ。
それは、単に従来の定跡が覆されるとか、新しい手が生み出されるといったことにとどまない。棋士の存在価値そのものが揺らぎかねないのである。
長らく棋士は最強の存在として君臨し続けてきた。だが、ソフトの登場によって、そうでなくなったら棋士としての価値をどこに見出していけばいいのか。
これはおそらく将棋に限らず、今後様々なジャンルで問われる問題であろう。そうした意味でも、この本は非常にスリリングな内容を含んでいると言っていい。
2016年7月20日、講談社現代新書、840円。