どこからを遠いというのか砂しろき丘に駱駝が目を伏せて立つ
福西直美
「遠い」は距離の遠さとも読めるし、時間的な遠さや関係の遠さとも読める。「目を伏せて」がいい。
声もたぬひとりとなりて森に入る湿つた落葉のあつき堆積
山尾春美
上句がいい。森に立つ木々は声を持たない。その中に人間である作者も入っていく。森の中では言葉はいらないのだ。
ささやかなやくそくひとつ果たすごと木の芽をぱん、と叩きて
祖母は 小田桐夕
香りを出すために木の芽を叩く。小さなことだけれども大事な手順だ。「ぱん」の後の読点がよく効いている。
湖西線新快速で敦賀まで湖(うみ)を右手に本を読み継ぐ
児嶋きよみ
湖西線はその名の通り琵琶湖の西岸を走る路線。車窓に広がる湖の明るさを感じつつ、本を読み続けているのだ。
均一にスポットライトを浴びている生えてる時より緑のサラダ
黒川しゆう
商品として店に並んだサラダ。畑に生えていた時よりも鮮やかな緑色をしている。きれい過ぎて少し不気味でもある。