目玉焼きのあかるい丘が運ばれてきたかなしむにはほど遠い朝
澤村斉美
目玉焼きを「あかるい丘」と捉えたのがいい。黄身の部分のふくらみが希望を感じさせる。
終末の迎へ方をばたれに聞かむあぢさゐの花芽ふくらみて来ぬ
山下れいこ
「終末の迎へ方」を知っている人は誰もいない。自分一人で向き合わなくてはならないのだ。8月19日に亡くなった作者の歌。
速報を見つつ娘に電話すれば「また揺れてる」と直ぐに切られぬ
伊東 文
娘の身を案じて電話する作者と、それどころではない娘のぶっきらぼうな対応のずれ。親子の関係がよく見えてくる。
少しだけミルクを足していくように五月の午後のかるいお喋り
塚本理加
上句の比喩がうまい。コーヒーにミルクを入れるような軽やかさ。下句の韻律も軽快だ。
ほめられることに慣れない ピスタチオつまんだ指に塩きらきらと
安田 茜
初二句と三句以下の取り合わせが良い。指先に付いた塩の輝きとかすかな違和感と。