全体が二部構成となっていて、前半は春日井建、荻原裕幸、小島ゆかり、野口あや子ら東海地方にゆかりの歌人31名について記した「東海のうたびと」、後半は名古屋のスポット37か所を訪ねて歌を詠んだ「吟遊の街」となっている。
前者は2015年6月から2016年1月まで「中日新聞」に連載したもの、後者は1999年4月から2000年3月まで「朝日新聞」名古屋本社版に連載したものである。
加藤治郎の文章は歯切れがよい。短い文を連ねてリズムを生み出していく。接続詞や接続助詞をあまり使わず、ポンポン畳みかけるように文が続けていく。
書き始めの部分にも工夫がある。
それは、一九八五年の夏だった。愛知県立大学のキャンパスである。ひとりの学生が、西田政史に声をかけた。(西田政史)
「岡野、うちへ来ないかい」
そう言ったのは、折口信夫であった。(岡野弘彦)
短い文章の冒頭から、読者をぐいっと引き付ける導入となっている。
短歌に関する箴言的な言葉が随所に盛り込まれているのも、本書の魅力の一つと言って良いだろう。
歌人には二つのタイプがある。日々の生活を詠う歌人。(・・・)もう一つのタイプは、新しい表現を求める歌人だ。
「するだろう」たった五音が短歌史を変えた。鮮やかだった。このインパクトは、この五十年間、短歌を志す者たちを惹きつけてきた。
歌人にとって最高の〈賞〉は、自作が多くの人々の愛誦歌になることではないだろうか。
どれもみな短い言葉で鮮やかに本質を切り取っていて、かっこいい。
少しかっこ良すぎる気もしないではないが。
2016年5月26日、中日新聞社、1200円。