2016年08月27日

井上章一著 『関西人の正体』


1995年に小学館の単行本、2003年には小学館文庫から刊行された本が、新たに朝日文庫に入ったもの。『京都ぎらい』の大ヒットを受けて、古い本が再刊になったということだろう。

関西と言っても、本書に取り上げられているのは主に大阪と京都である。関西への愛とともに、皮肉や笑いがふんだんに盛り込まれている。キーワードは「没落」だ。

ちなみに、底力がうんぬんされるのは、没落地帯の特性である。じっさい、東京に底力があるといわれることは、あまりない。よく使われるのは、関西の底力。
大阪のなまり、関西弁は、今、他地方に住むひとびとの耳におもしろくひびく。こっけいに聞こえる。これも。上方文化が没落過程にある現代ならではの状況だといえるだろう。
ユニークなアイデアにみちた街。この京都につきまとうキャッチフレーズは、この街がすでに文化の中心地でないことを示している。ありていにいって、辺境地であることを物語っていると思う。
奈良の二の舞を演じるな。明治の遷都以後、京都ではそういわれつづけていた。だが、京都は、ながらく停滞したままである。奈良化の傾向はとめがたい。

著者は「関西復権」など「関西」という言葉がしばしば使われる現状にも異議を呈する。

関東では「首都圏」という言いまわしが浮上した。辺境地の「関東」は、中央を意味する「首都圏」へと、格上げされていったのだ。この変容は、「畿内」から「関西」へと格下げされた地方とくらべて、まことに対照的である。

「関東/関西」と対にはなっているものの、そう言えば東京に住んでいたころ、「関東」という言葉はほとんど見かけなかったのを思い出す。

とにかく、面白い。特に東京に生まれ京都に住んでいる私には、思い当たること、学ぶことの多い一冊であった。

2016年7月30日、朝日文庫、640円。

posted by 松村正直 at 06:16| Comment(2) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
読みました。
面白いし、可笑しいとこもたくさん。
「京都ぎらい」も読みましたが、こっちの方が楽しめました。ルオーはビンゴで、小さくガッツポーズです。
Posted by 豚肉を揚げる音 at 2016年09月04日 16:30
面白いですよね。
著者の自虐と毒舌とユーモアにハマります。
その裏にはきっと深い愛情があるのでしょう。


Posted by 松村正直 at 2016年09月05日 10:35
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