副題は「男と女はどこで結ばれてきたのか」。
1999年に角川選書から刊行された『愛の空間』の第1章から5章を文庫化したもの。
近代以降、男女の性愛がどこで行われてきたのかを調べた風俗史である。野外、遊郭、待合、ソバ屋、銘酒屋、木賃宿、円宿、温泉マーク、アパートなど、時代による移り変わりを含めて、実に詳細に例が挙げられている。
かつての皇居前広場は、野外で性交をしあう男女のあつまる場所だった。多くのカップルが、愛しあうためにここへやってきた。第二次世界大戦の敗戦後、二〇世紀なかごろのことである。
あの皇居前広場で! 何とも驚きの事実である。
プロレタリア文芸の小林多喜二が、『工場細胞』(一九三〇年)という小説を書いている。作品のなかで、小林はお君という女工に、工場へつとめる女たちの批判を語らせた。たとえば、「日給を上げて貰うために、職長と……『そばや』に寄るものがある」などと。
こうした表現も、「そばや」が単なるソバ屋ではなく、当時、性愛の場所として利用されていた事実を踏まえないと意味不明なものとなってしまう。
一九三〇年代の日本、わけても大東京の横顔を……一瞥しようとする時、見落すことの出来ない三つの『円』がある。円本、円タク、円宿ホテル
「円本」「円タク」は歴史の教科書にも載っているが、「円宿」は初めて知った。時間制で一円という料金設定のホテルのことらしい。なるほど、教科書には載せにくい話だ。
当時の新聞・雑誌、さらに小説などの資料に非常に幅広く当たって、著者はこの一冊を書いている。しかも、1960年代以降のラブホテルに関する記述は、元版を全面的に書き直したいとのことで、この文庫版からは省かれた。その衰えない熱意に感嘆する。
2015年10月25日、角川ソフィア文庫、1120円。