特集とは関係なく、巻頭の中村稔「故旧哀傷・松田耕平」がすごくいい。
松田耕平さんは失格経営者として当時の東洋工業株式会社、現在のマツダ株式会社の社長職からの退陣を余儀なくされた方である。
という一文から始まり13ページ、少しも隙のない文章が続く。
まさに読ませる文章の見本という感じだ。
穂村弘と最果タヒの対談「ささやかな人生と不自由なことば」は、二人の率直なやり取りが印象に残る。
穂村さんの発言からいくつか。
僕は「なんで詩でも俳句でもなく短歌なんですか」って訊かれたときに、なんでハンマー投げの選手は円盤でも砲丸でもなくて、ハンマー投げるんだろうって思ったことがあって(笑)。
短歌は上手い人ほど、そこだけラインマーカーが引いてあるように見えることがある。「ここがツボだ」って。
(“あざとさ”みたいなことですか。)
仮に“あざとい”としても抗えない、なにか「味」みたいなものかなあ。
表現のための専用ツールである音楽や踊りだったら、現実の出来事からもっと独立した強さを持ち得るんじゃないか。でも、言語は短歌や詩の専用ツールじゃなくて、いわば兼用ツールだから、必ず意味の汚染を受けてしまう。
こうした鮮やかな比喩や的確な分析は、さすが穂村さんという感じがする。