友のもつ悩みを電話に聞きてをり金さへあれば解決するとふ
岩野伸子
悩みの電話を聞くのもなかなかしんどいものだ。「金さへあれば解決する」という言葉は、借金の申し込みを匂わせているのかもしれない。
春昼にパスタを巻けば菜の花はフォークの元に集まりてゆく
北辻千展
下句がうまい。春らしい菜の花のパスタを食べながら、作者の心はどこか浮かない様子である。ぼんやりとフォークの先を見つめている。
十五年の弟の生の証(あかし)とし一中慰霊碑にその名を残す
小菅悠紀子
十五歳だった弟は原爆で亡くなった。広島第一中学校の慰霊碑。遺骨も見つからなかった弟が、この世に生きた唯一の証なのだ。
妹はふたりいるけどふたりともわたしのきらいな椎茸が好き
空色ぴりか
一瞬、ふたりの妹のことが嫌いなのかと思って読んでいくが、そうではない。私が嫌いなのは椎茸。でも、妹との微妙な関係が感じられる気もする。
諦めることになれたるわたくしが十薬を十薬の根と引き合ふ
久岡貴子
「十薬」はドクダミ。庭にはびこるドクダミを抜こうとするが、なかなか抜けないのだ。下句の言い回しに味がある。まるで綱引きをしているみたい。
象のいるプールにぷかりぷかり浮く桃のやうなる糞の四・五個が
ぱいんぐりん
「桃のやうな」が絶妙。形と言い、大きさと言い、確かにその通り。美味しそうな桃とゾウの糞とのイメージの落差がおもしろい。
言葉でそうは書いてないけれど、そう感じ取れるところに味わいがあります。