副題は「漢字文化と日本語」。
2008年に光文社から刊行された『訓読みのはなし―漢字文化圏の日本語』を改題し、文庫化したもの。
日本語が漢字をどのように取り入れてきたのかという問題を、訓読みというユニークな方法を中心に紹介し、さらには朝鮮・韓国やベトナムなど東アジア圏における漢字の受容の歴史にまで話を広げている。
一つの漢字に対して音読みと訓読みの二つがあるというのは、普段あまり意識しないけれども、実はかなりユニークなことなのだ。
体系的な記述と言うよりは雑学的な部分が多いのだが、新しい発見がいろいろとあって楽しい。
日本における漢語は、亜「ア」、小「ショウ」、白「ハク」など、一音節か二音節と拍数が短い。また、二拍目に来る音は、(・・・)「イ」「ウ」「キ」「ク」「チ」「ツ」「ン」といった限られたものしかないなど、発音の種類が一定であり、概して硬質な感じが漂う。
「キク」は、花そのものが身近なこともあって、訓読みのように意識されがちであるが、音読みなのである。「胃(イ)」も、胃腸をまとめた語は別として、その臓器そのものと一対一で対応する和語がなかったようで、字音が単語として定着した。
江戸期には、その(漢文訓読の)技術を応用して、オランダ語や英語などの横書きの文に対しても、レ点や一・二点のような記号を単語と単語の間に加えながら読んで訳す「欧文訓読」「英文訓読」が行われることがあった。
奈良時代までさかのぼれば、和語のハ行はP音で発音されていたことが万葉仮名や擬音語に関する分析などから知られており、(・・・)「ひかり」は、奈良時代には「ぴかり」のように発音されていたのであった。
「ひかり」だとあまり光っている感じがしないけれど、「ぴかり」だと確かに光っている。
2014年4月25日、角川ソフィア文庫、760円。