副題は「農文一体」。
「文化連情報」「読売新聞」「十勝毎日新聞」に連載されたエッセイをまとめた本。北海道で農業と短歌にたずさわる生活のあれこれを、自作の歌をまじえつつ記している。
今年は長芋を二・五ヘクタール作付けするが、その種子の量は十二トンだ。
私の本職は百姓だ。耕作面積は約三十三ヘクタール。
私のヤマの内訳はカラマツの人工林が十五ヘクタール。天然林は十ヘクタール。
こんなスケールの大きな話がぽんぽん出てくる。
日々の農作業の話に始まって、農家数の減少、食糧自給率の低下、TPPなど、日本の農業をめぐる問題についても筆をふるう。
雪を食へばしらゆき姫になるといふわが嘘を聴く耳やはらかし
獣医師のおまへと語る北方論樹はいつぽんでなければならぬ
離農せしおまへの家をくべながら冬越す窓に花咲かせをり
エネルギッシュにひたすら前へ突き進む日々。その中にあって、作者は跡取りとも期待した娘婿を30歳という若さで失う。そのことを記した文章は、何とも胸に迫るものであった。
2016年5月25日、角川文化振興財団、1600円。