2016年07月07日

時田則雄著 『陽を翔るトラクター』


副題は「農文一体」。

「文化連情報」「読売新聞」「十勝毎日新聞」に連載されたエッセイをまとめた本。北海道で農業と短歌にたずさわる生活のあれこれを、自作の歌をまじえつつ記している。

今年は長芋を二・五ヘクタール作付けするが、その種子の量は十二トンだ。
私の本職は百姓だ。耕作面積は約三十三ヘクタール。
私のヤマの内訳はカラマツの人工林が十五ヘクタール。天然林は十ヘクタール。

こんなスケールの大きな話がぽんぽん出てくる。

日々の農作業の話に始まって、農家数の減少、食糧自給率の低下、TPPなど、日本の農業をめぐる問題についても筆をふるう。

雪を食へばしらゆき姫になるといふわが嘘を聴く耳やはらかし
獣医師のおまへと語る北方論樹はいつぽんでなければならぬ
離農せしおまへの家をくべながら冬越す窓に花咲かせをり

エネルギッシュにひたすら前へ突き進む日々。その中にあって、作者は跡取りとも期待した娘婿を30歳という若さで失う。そのことを記した文章は、何とも胸に迫るものであった。

2016年5月25日、角川文化振興財団、1600円。

posted by 松村正直 at 07:18| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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