副題は「イランの復活、サウジアラビアの変貌」。
テレビの解説などでもおなじみの著者が、今年1月のイランとサウジアラビアの断交のニュースを皮切りに、現在の中東情勢と今後の見通しについて記している。
中東の歴史や宗教に関しても最低限必要な知識をまとめてくれていて、ありがたい。専門家にとっては当り前のことでも、意外と知らないことが多いものだ。
サウジアラビアなどはアラブ人の国だが、イランはペルシアの国だ。この違いは、私たち日本人が思っている以上に大きい。
イラン人は、自分たちは巨大なペルシア帝国をつくった人々の子孫だという強烈な意識を持っている。地理的な広さに基づく大国意識だけでなく、歴史的な意識に支えられた大国意識をも抱く、誇り高い人々なのだ。
「石油の時代」がいつまでも続くのがサウジアラビアの国益である。石油関係者がよく言うように、「石器時代が終わったのは石がなくなったからではない」。石器に代わる鉄器が現れたからである。
現在のトルコという国は、オスマン帝国の継承国である。オスマン帝国は、かつてはイスタンブールを首都とし、アジア、アフリカ、ヨーロッパにわたる広大な領土を支配していた。
その昔、世界史の授業で習った「ペルシア帝国」や「オスマン帝国」の話が、まさに現在の問題へとつながっていることがよくわかる。学生時代は「こんなこと習って何の役に立つのか」などと文句を言っていたけれど、現在起きている問題を考える際にも歴史は大きなヒントや手掛かりとなるのである。
本書を読んで一番衝撃だったのは、
ありていに言えば、中東で“国”と呼べるのは三つだけだ。先ほど述べたイラン、そしてエジプトとトルコである。
という話。著者によれば、それ以外のサウジアラビアやイラクやシリアは「国もどき」ということになる。私たちが近代国民国家をベースに考えている国という概念は、そもそも普遍的なものではないということなのだろう。
イギリスのEU離脱、トルコのイスタンブール空港でのテロについて自分なりに考える際にも、この本は非常に役に立つ。歯切れの良い文章で読みやすく、中身は濃い。タイトルはやや刺激的過ぎるが、別に何かを煽るわけではなく、内容はバランスの取れた記述となっている。
2016年6月10日、NHK出版新書、780円。